近年、調剤薬局の事業継承件数は増加しています。
後継者の不在や調剤報酬改定などによる経営難から、調剤薬局の事業継承を検討している方もいらっしゃるでしょう。
しかし事業継承は、人生で何度も行うものではありません。よって何から始めれば良いのか、どんな方法があるのか、なかなか分かりませんよね。
そこで今回は、調剤薬局の事業継承の種類3つや、その中でもM&Aが注目される理由、売却相場や事業継承の大まかな流れなどについて網羅的にまとめました。
薬局特化型M&A仲介会社の目線から、本音で、分かりやすく解説します。
記事を最後までチェックすれば、調剤薬局の事業継承に関することがひと通り分かりますよ。
調剤薬局における事業継承の種類
まず調剤薬局における事業継承には、以下3つの種類があります。
- ・親族内継承
- ・親族外継承
- ・第三者への継承(M&A)
それぞれ詳しく見てみましょう。
親族内継承
親族内継承とは、その名のとおり現オーナーが親族(子供・配偶者・孫・甥・姪・兄弟など)に事業を引き継ぐ方法です。
親族という信頼できる相手に事業を継承できるので、最も安心できる選択肢と言えるでしょう。
中小企業の場合、親族の中でも子供への継承が81.5%と大半を占めています。
将来的な親族内継承を前提に、子供に調剤薬局で数年間働いてもらうケースも珍しくありません。
しかし詳しくは後述しますが、親族内継承の割合は減少傾向にあります。理由は以下のとおりです。
- ・少子化による後継者不足
- ・業界の先行きが厳しいため、後継者に負担をかけたくないと考える経営者の増加
- ・後を継がずに自分の道を進みたいと考える子供の増加
よって親族内継承を希望しながらも、結果的にはこれから紹介する親族外継承や第三者への継承(M&A)の選択肢を選ぶ方が増えています。
親族外継承
親族外継承とは、親族以外の従業員・役員・社外人材に事業を引き継ぐ方法です。
親族外継承は、大きく以下の2つに分かれます。
- ・内部昇格
- ・外部招聘
内部昇格とは、社内の役員や従業員が昇格して経営権を引き継ぐ方法です。株式はオーナーが保有します。いわゆる「雇われ社長」のような形です。
外部招聘とは社外から経営の知識や経験が豊富な人材を招いて後継者とする方法です。この選択肢は、親族や社内の役員・従業員から後継者が見つからない場合によく採用されます。
外部招聘も内部昇格と同じく、株式はオーナーが保有するのが一般的です。
また外部招聘では、従業員と全く面識のない人材が調剤薬局のトップに就くことになります。そのため、従業員の反発を招きやすく、慎重な対応が必要です。
詳しくは後述しますが、親族外継承においては、外部招聘よりも内部昇格の割合の方が圧倒的に高くなっています。
第三者への継承(M&A)
M&AはMergers and Acquisitionsの略で、日本語だと「企業の合併・買収」です。M&Aでは、調剤薬局の事業を外部の企業や個人に売却します。
M&Aでは他2つの選択肢と異なり事業を売却するので、売却益が得られます。その分手続きが複雑なので、仲介業者を利用するのが一般的です。
親族内継承や親族外継承よりも広い範囲で後継者を探せるなど、さまざまなメリットがあります。
後継者不足が深刻化する近年、M&Aは特に注目される選択肢です。
調剤薬局のM&Aについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:調剤薬局の売却を検討中の方必見!相場や高値で売るコツを解説
事業継承では内部昇格とM&Aの割合が増加傾向にある
ここまで紹介した、調剤薬局における事業継承の種類は以下のとおりです。
- ・親族内継承
- ・親族外継承(内部昇格・外部招聘)
- ・第三者への継承(M&A)
そしてこれらの中でも、内部昇格とM&Aの割合が、近年増加傾向にあります。
以下は、経営者への就任経緯を種類別にまとめたグラフです。
内部昇格とM&Aの割合の割合は、増加傾向にあります。そして親族内継承の割合だけが、大幅に減少しています。
上記は中小企業全体に関するデータです。調剤薬局だけのデータではありません。しかし調剤薬局の事業継承に対しても、同じことが言えます。
むしろ医療業界の方が後継者不在率は高いので、割合は上記よりも内部昇格とM&Aが高く、親族内継承が低いと考えられます。
調剤薬局を含む医療業界は後継者不在率が高い傾向にある
2023年の後継者不在率は、53.9%と過去最低を記録しています。
そして以下は、後継者不在率が高い業界をまとめた表です。
業界 | 後継者不在率(2023年) |
---|---|
自動車・自転車小売 | 66.4% |
医療業 | 65.3% |
職別工事業 | 64.6% |
専門サービス | 63.4% |
郵便・電気通信 | 61.9% |
調剤薬局を含む医療業界の後継者不在率は65.3%と、平均を大きく上回り2番目に高いことが分かります。
後継者不足はどの業界でも深刻化しており、医療業界では特にその傾向が顕著です。
よって親族内や親族外で比較的近い相手に事業を継承するのではなく、M&Aを選ぶ調剤薬局の経営者が増えています。
M&Aによる調剤薬局の事業継承方法は2つある
M&Aによる調剤薬局の事業継承方法は、大きく以下の2つに分かれます。
- ・事業譲渡
- ・株式譲渡
1つずつ詳しく解説します。
事業譲渡
事業譲渡とは調剤薬局の譲渡方法に一番用いられる取引で、企業が保有する事業の一部または全部を他社に売却する取引です。
例えば複数の事業を行っている場合、調剤薬局に関する事業だけを売却するといったイメージです。
売り手は不要な事業だけを売却でき、買い手は必要な事業だけを買収できます。
調剤薬局関連の事業を譲渡した後も、会社組織は手元に残ります。よって「調剤薬局事業だけ手放したい」「引き続き会社の経営は行いたい」と考えている経営者におすすめの選択肢です。
一方で、事業譲渡後に引退を検討する経営者も多いですが、デメリットももちろんあります。
事業譲渡には、後述する株式譲渡よりも売却益が低くなりやすかったり、契約に手間がかかったりといったデメリットがあります。
また従業員の雇用契約は継承されません。よって、あらためて買い手企業と雇用契約を結ぶこととなります。
株式譲渡
株式譲渡とは、調剤薬局のオーナーが保有株式を買い手に譲渡して、経営権を含む事業全般を引き継ぐ取引です。
調剤薬局では、一般的には事業譲渡が多く、株式譲渡が採用されるケースは少ないです。
資産・負債・従業員などを全て買い手に引き継ぐため、先ほど解説した事業譲渡と比較してシンプルです。
会社を丸ごと売却するので、事業譲渡よりも高い売却益が得られる可能性があります。しかしながら、負債の総額や、簿外債務等のリスクを買い手側が感じてしまった場合、二足三文の譲渡になってしまう可能性もあります。
また、株式譲渡は、調剤薬局を複数店舗経営されてるかつ、簿外債務や負債が少ない経営をされている売り手には、おすすめの取引です。
調剤薬局の事業継承相場を決める3つの要素
調剤薬局の事業継承で得られる売却益は、それぞれ異なります。よって一概に「いくら」と言うことはできません。
例えば、弊社アウナラでは「営業権3,200万円+固定資産+医薬品在庫」や「営業権400万円+固定資産+医薬品在庫」といった条件で成約した事例があります。
しかし調剤報酬改定や消費税増税などの要因により、調剤薬局の事業継承相場が下降傾向にあることは確かです。
ここでは、調剤薬局の事業継承相場を決める以下3つの要素について解説します。
- ・時価純資産価額
- ・営業権
- ・1ヶ月あたりの技術料
1つずつ詳しく見てみましょう。
時価純資産価額
時価純資産価額とは、企業が保有する資産の時価総額から負債の時価総額を差し引いた金額のことです。
調剤薬局の場合、調剤機器や不動産などが資産にあたります。そして銀行からの借入金や仕入先への買掛金などが負債にあたります。
資産から負債を引くことで、現時点での企業価値を算出可能です。
時価純資産価額は、非上場企業がM&Aを実施する際、株式が市場取引されておらず株価がない場合に用いられます。
営業権
営業権とは、企業が長期間にわたって収益を上げるために重要となる無形固定資産のことです。
例えば顧客基盤やブランド力、従業員のスキルなどが営業権にあたります。
こういった「無形」の資産は、先ほど紹介した時価純資産価額では算出できません。よって営業権という指標を用います。
特に地域に密着した薬局では、患者や地域社会との信頼関係が、事業の継続性や顧客の忠誠心を保つ上で大きな価値を持ちます。
よって営業権が大切です。
営業権は、1年間の営業利益に付加価値(買収後の将来性など)を加算するなどして算出されます。
弊社で公開している成約事例でも、営業権は0〜3,200万円と、調剤薬局によって大きく異なります。
1ヶ月あたりの技術料
1ヶ月あたりの技術料とは、1ヶ月間の調剤技術料と薬学管理料を合計したものです。
技術料は、調剤薬局の規模や患者数、処方箋の内容などによって変動します。
技術料を算出することで、売上を薬価と技術料に分割可能です。つまり売上に占める技術料の割合が分かります。
技術料が安定している薬局はそれだけ顧客から評価されているということです。よって事業継承における譲渡価格が上昇する傾向にあります。
調剤薬局の事業継承手続きの大まかな流れ
調剤薬局の事業継承手続きの大まかな流れは以下のとおりです。
- ・M&A戦略
- ・ディール実行
- ・PMI
それぞれ簡単に解説します。
M&A戦略
調剤薬局の事業継承には、以下3つの選択肢があるとお伝えしました。
- ・親族内継承
- ・親族外継承
- ・第三者への継承(M&A)
まずはどの方法で事業継承を行うのかを決めましょう。
そしてM&Aによる事業継承への意志が固まったら、自社の強みや弱みを分析して、どういった買い手が理想かを考えます。
買い手のイメージが描けたら、候補探しに入ります。最初から1社に絞り込むのではなく、数十社の候補のなかから徐々に絞り込んでいきましょう。
M&Aでは、仲介会社を利用するのが一般的です。
仲介会社が作成した企業概要書(売り手企業の詳細な情報を盛り込んだ資料)を買い手候補に提供して、前向きな返事をもらえたら、次の「ディール実行」に移ります。
ディール実行
自社に興味を持つ買い手候補が現れたら、交渉を行います。
ここでは、M&Aによって得られる双方のメリットを確認したり、具体的な条件(譲渡価額や実行日など)を決めたりします。
そして両者合意に至った場合に締結されるのが、基本合意書です。
基本合意後は、買い手側がデューデリジェンス(価値やリスクなどの調査)を行います。売り手側は、デューデリジェンスに必要な書類を用意しましょう。
特に問題がなければ、最終合意に向けた調整に入ります。
売り手の希望する条件が全て通るのが理想です。しかし希望が全て通るのは稀で、大半の場合は妥協点を見出す必要が出てきます。
条件の合意を経て、M&A成立となります。
PMI
PMIはPost Merger Integrationの略で、M&A後の統合プロセスを指す言葉です。
新たな組織体制や業務フローを確立して、既存の従業員や顧客に対する影響を最小限に抑えることを目的とします。
PMIが適切に実施されないと、従業員が不安を感じてしまったり、顧客との信頼関係を維持できなかったりします。
PMIは事業譲渡後に調剤薬局を経営する買い手側にとって、特に重要なプロセスです。
以上が調剤薬局の事業継承手続きの大まかな流れです。
調剤薬局の事業譲渡案件の成約事例
弊社アウナラでの調剤薬局事業譲渡案件の成約事例を、2つピックアップして紹介します。
成約事例1
地域 | 東日本地域 |
---|---|
業種・職種 | 門前医療機関主科目 内科系 |
調剤基本料 | 1 |
後発加算 | なし |
月技術料 | 287万円 |
月薬剤料 | 743万円 |
日枚数 | 45枚 |
ドクター年齢 | 50代 |
在宅 | なし |
従業員引継ぎ | あり |
成約結果 | 営業権3,200万円+固定資産+医薬品在庫 |
成約事例2
地域 | 西日本地域 |
---|---|
業種・職種 | 門前医療機関主科目 内科系 |
調剤基本料 | 3 |
後発加算 | 3 |
月技術料 | 157万円 |
月薬剤料 | 469万円 |
日枚数 | 31枚 |
ドクター年齢 | 50代 |
在宅 | あり |
従業員引継ぎ | あり |
成約結果 | 営業権400万円+固定資産+医薬品在庫 |
他の成約事例も気になる方は、以下をチェックしてみてください。
>>薬局特化型のM&A仲介会社「アウナラ」の成約事例はこちら
調剤薬局の事業継承(M&A)のために仲介会社を選ぶ際の注意点
調剤薬局のM&Aは、一般的に仲介会社を介して実行されます。
調剤薬局M&Aの仲介会社を選ぶ際の注意点は、以下の3つです。
- ・薬局業界に詳しい仲介業者を選ぶ
- ・料金形態が明確な仲介業者を選ぶ
- ・最後は担当者と話してみる
1つずつ詳しく解説します。
薬局業界に詳しい仲介業者を選ぶ
薬局業界には、他の業界とは異なる法規制があります。また薬剤管理や処方箋取扱いなどの特殊な知識が求められます。
よって調剤薬局のM&Aを行う際は、医療業界を得意とする仲介会社を選びましょう。医療業界のなかでも、薬局業界に特化した仲介会社がおすすめです。
M&A仲介会社によって、得意とする業界が異なります。「M&A仲介会社であればどこでも良い」というわけではありません。
医療業界に精通していないM&A仲介会社を選んでしまうと、やり取りのなかで「この人本当に理解しているのかな」と感じる場面が出てくるでしょう。
医療業界を得意とする仲介会社を選ぶことで、適切な買い手と巡り会えます。また取引がスムーズに進みます。
料金形態が明確な仲介業者を選ぶ
料金形態は、M&A仲介会社によって異なります。なかには自社の利益のことしか考えていない仲介会社もあるので要注意です。
気になるM&A仲介会社のホームページにアクセスして、料金体系が明確かどうかを確認しましょう。
まず、料金について記載のない仲介会社は避けてください。
M&Aの仲介手数料には、以下のように複数のパターンがあります。
- ・成功報酬型
- ・定額制
- ・着手金+成功報酬
おすすめは1つ目の「成功報酬型」です。売却益の一部を仲介手数料に充てられるので、売り手側が損をすることがありません。
また仲介会社側にも「成約しなければ報酬をいただけない」というインセンティブが働くので、M&Aが上手くいく可能性が高くなります。
トラブルを避けるため、料金に関する疑問は事前に全て解決しておくことが大切です。
最後は担当者と話してみる
これはM&Aのみならず、どんなサービスに対しても言えることですが、結局は担当者と話してみるまでは分かりません。
インターネット上に転がっている情報や口コミ・評判だけでは、その仲介会社が本当に自社に合っているのかを判断することはできません。
よって気になる仲介会社をある程度絞り込めたら、積極的に問い合わせをして、担当者と話してみましょう。
特にM&Aプロセスは長期に渡るので、担当者への信頼やコミュニケーションのしやすさが大切です。また担当者が調剤薬局のM&Aについてどのくらいの知識を持っているのかも、直接のやり取りで判断できるでしょう。
調剤薬局のM&Aはアウナラにおまかせください
薬歴メーカー元代表をはじめ、薬剤師や公認会計士などその道のスペシャリストで構成されたチームが、クライアントのM&Aを全力でサポートします。
料金体系は成功報酬型です。よってM&Aが成功しない限り、手数料はかかりません。また売却益の一部が仲介手数料になるので、売り手様は完全無料でM&Aを行えます。
アウナラは、これまでに全国のさまざまな調剤薬局M&Aを支援してきました。薬価交渉や税務支援などを含むM&Aの実績も豊富です。
アウナラでは、全ての調剤薬局経営者様にM&Aをおすすめすることはありません。「M&Aをしたほうが良いかどうか」から判断させていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
相談料も完全無料です。
まとめ
調剤薬局の事業継承の種類3つや、その中でもM&Aが注目される理由、売却相場や事業継承の大まかな流れなどについて解説しました。
調剤薬局の事業継承には、以下3つの種類があるとお伝えしました。
- ・親族内継承
- ・親族外継承
- ・第三者への継承(M&A)
そして後継者不足などの理由から「第三者への継承(M&A)」を選ぶ経営者が増えています。
M&Aの売却相場は、数百万円から数千万円と、調剤薬局によって大きく異なります。
そして調剤薬局のM&Aには、仲介会社を利用するのが一般的です。仲介会社に問い合わせをした際に、おおよその売却価格について尋ねてみると良いでしょう。
一言で、M&A仲介会社と言っても、得意とする領域はそれぞれ異なります。調剤薬局のM&Aでは、医療業界、できれば薬局業界を得意とする仲介会社を選びましょう。
アウナラは、薬局業界特化型のM&A仲介会社です。成功報酬型なので、売り手様は完全無料でM&Aを行えます。以下よりぜひ無料でご相談ください。