近年、調剤薬局を売却する経営者は増えています。
売却は人生でそう何度も経験することではないので、「どのくらいで売却できるのかを知りたい」「できる限り高値で売却したい」とお悩みの方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、調剤薬局を売却すべきタイミングや相場、できるだけ高値で売却する方法などについてまとめました。
薬局特化型M&A仲介会社の目線から、本音で分かりやすく解説します。
記事を最後までチェックすれば、調剤薬局の売却に関することがひと通り分かりますよ。
調剤薬局の売却方法は大きく2つ
調剤薬局の売却方法は、以下の2つに分かれます。
- ・事業譲渡
- ・株式譲渡
それぞれ詳しく見てみましょう。
事業譲渡
事業譲渡は、企業が特定の事業を他社に売却する方法です。
調剤薬局事業だけを売却し、他の事業は引き続き保有することが可能です。
事業譲渡には以下のようなデメリットがあります。
- ・従業員の雇用契約が引き継がれないため、新たな雇用契約の締結が必要
- ・売却益は株式譲渡と比較して低くなりがちなため、純粋に利益を重視する場合には不向き
- ・売却には複雑な契約手続きが必要なので、一定の労力と時間を要する
以上の理由から、事業譲渡は「調剤薬局の事業のみを売却し、会社組織を維持したい」と考える経営者には向いている選択肢と言えます。
一方で、完全に引退を考えている場合には、これから紹介する株式譲渡の方が適しています。
株式譲渡
株式譲渡は、企業の所有者が保有する株式を買い手に譲渡し、経営権を含む事業全体を引き継ぐ方法です。
株式譲渡では、資産や負債、従業員をすべてそのまま買い手に引き継ぐため、事業譲渡に比べて手続きがスムーズで管理負担が少ないメリットがあります。
また、株式譲渡は売却益が高くなる傾向があり、利益を重視する経営者におすすめです。
これは、会社全体が一つのパッケージとして売却されるため、買い手側も安定的な事業引継ぎが期待できる点が評価されるためです。
特に引退を計画している経営者にとっては、会社全体を譲渡することで運営責任から解放されるため、おすすめの選択肢です。
調剤薬局を売却すべき4つのタイミング
調剤薬局を売却すべきタイミングを、以下の4つに分けて紹介します。
- ・身近に後継者がいない時
- ・他の事業に集中したい時
- ・引退したい時
- ・廃業をしたくない時
調剤薬局を売却すべきか否か悩んでいる方は、参考にしてみてください。
身近に後継者がいない時
経営者の座を退こうと考えた際、まず最初に選択肢として思い浮かぶのが、身近な人への事業継承ではないでしょうか。
以下は中小企業経営者への就任経緯を種類別にまとめたグラフです。
2023年の速報値では、割合として一番高いのが内部昇格の35.5%、次いで同族継承の33.1%と、身近な人が後継者となるケースが過半数を占めています。
内部昇格とは、社内の役員や従業員が昇格して経営権を引き継ぐ方法です。同族継承とは、親族(子供・配偶者・孫・甥・姪・兄弟など)が経営権を引き継ぐ方法です。
しかし最近は、少子化などの理由から、後継者不足の問題が深刻化しています。
親族や社内の役員・従業員に後継者候補がいない場合は、調剤薬局の売却を検討すべきです。
関連記事:調剤薬局の事業継承を徹底解説!相場や手続き、失敗を避ける注意点を紹介
他の事業に集中したい時
複数の事業を展開しており、調剤薬局以外の事業に集中したい時も、売却を検討すべき1つのタイミングです。
売却には、事業譲渡と株式譲渡の2つがあるとお伝えしました。複数の事業のうち調剤薬局に関する事業だけを売却する場合は、そのなかでも「事業譲渡」を行うこととなります。
事業譲渡によって、調剤薬局の運営に割いていた時間や労力を、他の事業に集中させられます。また資金や人材、調剤薬局の売却益を他の事業に再投資できる点も大きなメリットです。
引退したい時
年齢などを理由に経営者を引退する場合、考えられる選択肢は以下の3つです。
- ・廃業
- ・親族内継承・親族外継承(内部昇格)
- ・売却
前述のとおり親族内継承や親族外継承(内部昇格)は、後継者不足などの問題から、必ずしも実現できるものではありません。
そしてただ廃業をするくらいであれば、売却をした方が売却益が得られて引退後の生活資金に余裕が生まれます。
引退後の生活のことを考えるのであれば、売却の選択肢がおすすめです。
廃業をしたくない時
調剤薬局の廃業によるデメリットは、以下のとおりです。
- ・売却益が得られない
- ・従業員の生活不安
- ・地域医療への影響
- ・顧客との信頼関係の喪失
廃業をすると、従業員が路頭に迷うこととなります。また顧客が他の薬局を探さなければなりません。
調剤薬局を売却すれば、事業は存続します。
経営体制や業務環境に多少の変化があるかもしれませんが、従業員や顧客に大きな影響が及ぶことはなく、安心して勤務・利用を続けることができます。
以上から「事業からは退きたい」「しかし廃業はしたくない」と考える経営者には、調剤薬局の売却がおすすめです。
廃業よりも売却を選択した方が、自身の生活・従業員の生活・地域社会の全てにおいてメリットがあります。
調剤薬局を売却する中小企業が増加している理由
実は、調剤薬局を売却する中小企業は増加しています。理由は以下の3つです。
- ・後継者不足
- ・規制強化
- ・大手チェーンの規模拡大
それぞれ詳しく見てみましょう。
後継者不足
薬局業界のみならず、中小企業全体として、後継者不足問題は深刻化しています。中小企業における2023年の後継者不在率は、53.9%と半数を超えています。
後継者不足が深刻化する原因は以下のとおりです。
- ・少子化
- ・事業を継ぎたくない子の増加
- ・子に継がせたくないと考える経営者の増加
- ・経営の先行き不安
そして薬局業界は、日本で2番目に後継者不在率が高い業界です。
業界 | 後継者不在率(2023年) |
---|---|
自動車・自転車小売 | 66.4% |
医療業 | 65.3% |
職別工事業 | 64.6% |
専門サービス | 63.4% |
郵便・電気通信 | 61.9% |
薬局を含む医療業の後継者不在率は、平均の53.9%を大きく上回る65.3%となっています。
後継者不足から親族内継承や親族外継承(内部昇格)といった選択肢を取れず、売却を選ぶ調剤薬局が増えています。
規制強化
日本では医療費削減の一環として、診療報酬や薬価の減額が続いています。
これに伴い、薬剤師の調剤報酬も減少傾向にあり、特に特定の病院からの処方箋を多く取り扱う「門前薬局」では、減額の影響が顕著です。
そのため、従来のビジネスモデルを維持するだけでは、経営が厳しくなる状況が生まれています。
加えて、近年の規制緩和によって、大手薬局グループが医療モールを構築し、そこに病院や薬局を誘致するモデルが増加しています。
このモデルにより、医療モール内の薬局は特定病院からの処方箋を集中的に扱うことが可能となりました。
しかし処方箋の集中率が高い場合、門前薬局と同様に調剤報酬の減額対象とされる可能性が生じ、経営環境はより一層厳しくなることが予想されます。
さらに、薬価の低価格化も進行中です。
ジェネリック医薬品の普及により、患者にとって安価で手に取りやすい薬が増えました。国もジェネリック薬の推奨を進めており、これによって患者が低価格のジェネリック薬を選択する機会が増加しました。
現在では、多くの患者がジェネリック薬を利用することに抵抗が少なくなっており、結果として薬局の収益に影響を及ぼすケースが多くなってきています。
以上から「経営の先行きが不安」と感じ、調剤薬局の売却を検討する経営者が増えています。
大手チェーンの規模拡大
調剤薬局業界では、大手チェーンの急速な規模拡大が進んでおり、中小規模の薬局は競争の激化にさらされています。
大手チェーンは豊富な資金力を背景に、都市部だけでなく地方にも進出しており、地域密着の中小規模の薬局が従来持っていた顧客層にも浸透しつつあります。
大手は人材や資金面で、中小の調剤薬局と比べて有利です。
よって中小規模の薬局が競争に打ち勝つための戦略が限られてしまい、経営の継続が難しくなるケースが増えています。
大手チェーンの台頭を理由に、経営資源の豊富な企業への売却を検討する中小規模の薬局が増加しているのです。
主にこれら3つの理由から、調剤薬局を売却する中小企業は増加しています。
調剤薬局の売却価格の相場
調剤薬局の売却価格に、相場は存在しません。売却価格は、調剤薬局によって大きく異なります。
例えば弊社アウナラでは「営業権3,200万円+固定資産+医薬品在庫」や「営業権400万円+固定資産+医薬品在庫」といった条件で成約した事例があります。
そして調剤薬局の売却価格を決めるのが、以下3つの要素です。
- ・時価純資産価額
- ・営業権
- ・1ヶ月あたりの技術料
1つずつ詳しく見てみましょう。
時価純資産価額
時価純資産価額とは、企業が所有する資産を時価で評価し、その総額から負債の時価総額を差し引いた金額を指します。
調剤薬局の場合、調剤機器や不動産、備品などが資産に含まれます。また、銀行からの借入金や取引先への未払金が負債に該当します。
資産と負債を時価で評価し直し、その差額を求めることで、企業の現時点での実質的な価値を算出できるのです。
この方法は、特に株式市場での取引がない非上場企業の売却において用いられます。
時価純資産価額は、譲渡価格の基礎として役立ちます。売却を検討する際に実際の資産価値が明確になるため、買い手にとっても信頼性のある指標として広く用いられています。
営業権
営業権とは、企業が収益を生み続けるための無形の資産価値を指します。
調剤薬局の場合、地域住民との信頼関係や、患者の継続的な来店といった顧客基盤、薬局のブランド力、従業員の高いスキルなどが営業権として評価されます。
この無形の資産価値は、時価純資産価額では測れないため、別途評価が必要です。
特に地域密着型の薬局では、長年培った地域社会との関係性や患者からの信頼が事業の存続性に大きく寄与し、これが営業権の価値となります。
営業権の算出方法には、年間の営業利益に事業の将来性を考慮した付加価値を加えるケースが一般的です。
調剤薬局の営業権の評価額は薬局によって大きく異なり、経営実績や地域への影響力が高い薬局ほど高評価される傾向があります。
1ヶ月あたりの技術料
1ヶ月あたりの技術料とは、調剤薬局が1ヶ月間に得る調剤技術料と薬学管理料の合計のことです。
技術料は、薬局の規模や患者数、処方箋の内容などにより変動します。安定した技術料を維持している薬局は顧客からの信頼が厚く、それが売却時にも評価されます。
技術料を算出することで、薬局の売上を薬価と技術料に分けて分析することが可能です。
特に技術料が高い場合、薬局の専門性や顧客満足度が評価されていると判断され、売却時の譲渡価格にプラスの影響を与えます。
技術料が安定している薬局は、買い手にとって魅力的な投資先となりやすいため、売却価格の相場にも影響を与える重要な指標です。
高値で売却できる調剤薬局の特徴
以下の特徴を持つ調剤薬局は、高値で売却できる傾向にあります。
- ・薬剤師を多く雇用している
- ・立地が良い
- ・M&Aの適切なサポートを受けている
それぞれ詳しく見てみましょう。
薬剤師を多く雇用している
薬剤師は、慢性的な人手不足に陥っています。
人手不足の原因は複数ありますが、そのなかでも大きいのが薬局の増加による薬剤師の分散です。
よって薬剤師を多く雇用していると、それが評価され、高値での売却につながります。買い手が薬剤師を一から雇用するのは手間がかかるからです。
しかし大半の中小規模の薬局において、薬剤師資格を持つのは経営者だけです。他のスタッフは、事務作業や商品の陳列など、薬剤師資格を必要としない仕事に従事しています。
売却をして経営者が引退すると、その調剤薬局に薬剤師はいなくなるかもしれません。
薬剤師の数は確かに売却価格に影響しますが、薬剤師が経営者一人だけである中小規模の薬局にとっては、関係のない条件です。
立地が良い
調剤薬局の立地も、売却価額に大きく影響します。
調剤薬局の数は、コンビニエンスストアよりも多いと言われています。以下は、調剤薬局数の推移をまとめたグラフです。
2020年時点では、全国に60,951の調剤薬局があります。
一方2023年度のコンビニエンスストアの数は、全国で57,594店舗です(出典:日本経済新聞 コンビニ数、初の2年連続前年割れ 人手不足で立地厳選)。
上記のデータからも、調剤薬局の数が如何に多いか、お分かりいただけるでしょう。
よって買い手は、良い立地に新たに調剤薬局を建てるよりも、すでに良い立地にある調剤薬局を買収しようと考えます。
以上から良い立地にある調剤薬局は、比較的高値で売却できる傾向にあります。
M&Aの適切なサポートを受けている
M&AはMergers and Acquisitionsの略で、日本語だと「企業の合併・買収」です。調剤薬局の売却とは、基本的にM&Aのことを意味します。
そして調剤薬局の売却(M&A)には、専門的な知識と経験が求められます。知識と経験が不足しているが故に、本来よりも低い価額でしか調剤薬局を売却できないなんてこともあるでしょう。
調剤薬局をできるだけ高値で売却したいのであれば、適切なサポートが欠かせません。具体的には、M&A仲介業者の利用をおすすめします。
M&A仲介業者を利用することで、調剤薬局の強みを買い手に魅力的にアピールできたり、価額や条件面で有利な提案ができたりします。
調剤薬局の売却は仲介業者の利用がおすすめ
調剤薬局の売却には、仲介業者の利用がおすすめです。理由は以下の4つです。
- ・仲介業者なしでの売却は難しい
- ・幅広い買い手にアクセスできる
- ・価格交渉のサポートを受けられる
- ・成功報酬型だと無料で依頼できる
1つずつ詳しく説明します。
仲介業者なしでの売却は難しい
調剤薬局の売却の大まかな流れは以下のとおりです。
- ・M&A戦略
- ・ディール実行
- ・PMI
詳しい流れは以下記事でも解説しています。
関連記事:調剤薬局の事業継承を徹底解説!相場や手続き、失敗を避ける注意点を紹介
売却には、交渉力などに加えて、法務や財務、税務に関する専門的な知識が必要です。そもそも仲介業者なしでの調剤薬局の売却は、難しいと考えた方が良いでしょう。
仲介業者を利用しない場合、まず売却相手を探すだけでも多くの時間と労力がかかります。
調剤薬局の事業継承には、親族内継承・親族外継承(内部昇格)・売却(M&A)と複数の選択肢があります。そのなかでも売却を選択するのであれば、仲介業者の利用が欠かせません。
幅広い買い手にアクセスできる
たしかに仲介業者なしでの調剤薬局の売却も不可能ではありません。
しかし、経験や知識のない方が自力で調剤薬局を売却する場合、まず買い手探しに苦労します。また、買い手が見つかったとしても、買い手候補の数が限られると、価額や条件面での妥協を余儀なくされます。
一方仲介業者は、買い手の豊富なネットワークを持っています。仲介業者を利用すれば、幅広い買い手へのアクセスが可能です。
成約の可能性を高めたり、少しでも良い条件での売却を成功させるには、買い手候補の母数が多いに越したことはありません。
また、一言で仲介業者と言っても、得意とする業界はそれぞれ異なります。調剤薬局を売却する場合は、医療業界や薬局業界に強い仲介業者を選びましょう。
その方が、より親和性の高い買い手のネットワークを提示してもらえます。
価格交渉のサポートを受けられる
価格交渉は、調剤薬局の売却を成功させる上で、特に重要なプロセスです。そして経験や知識が少ないと、適正価格での交渉が難しくなります。
交渉力次第では、売り手にとって不利な条件を飲まされる可能性もゼロではありません。
いくら調剤薬局を売却できても、納得のいく価額でなければ本末転倒です。
仲介業者に依頼をすれば、売り手と買い手以外の、第三者の客観的な視点から交渉が進みます。よってスムーズに交渉を進められます。
仲介業者は、文字通り何度も企業の売却を仲介しているM&Aのプロです。
価格交渉のサポートといった観点からも、仲介業者の利用がおすすめです。
成功報酬型だと無料で依頼できる
M&A仲介業者の料金体系には、以下のような種類があります。
- ・成功報酬型
- ・定額制
- ・着手金+成功報酬
「定額制」と「着手金+成功報酬」では、売却できたかどうかに関わらず、費用が発生します。
一方「成功報酬型」の場合、売却が成功しない限り、仲介手数料は発生しません。また仲介手数料は、調剤薬局の売却益から支払われます。
よって売り手は、実質無料で仲介業者を利用できます。万が一売却が成立しなかった場合にも、損をすることはありません。
また仲介会社側にも「成約しなければ報酬をいただけない」というインセンティブが働くので、M&Aが上手くいく可能性が高くなります。
仲介業者を選ぶ際は「成功報酬型」の料金体系を採用している業者を選びましょう。
以上の理由から、自力でM&Aを行った経験がある方以外には、仲介業者の利用をおすすめします。
調剤薬局の売却はアウナラにおまかせください
アウナラは、薬局業界に特化したM&A仲介サービスを提供している会社です。
チームには、元薬歴システムメーカーの代表をはじめ、薬剤師や公認会計士など、各分野の専門家が揃い、クライアントのM&Aを全力で支援しています。
料金体系は成功報酬型を採用しており、M&Aが完了するまでは手数料が発生しません。
さらに、仲介手数料は売却益の一部から算出されるため、売却を検討している企業様は費用負担なしでM&Aを進めることが可能です。
アウナラは、全国の調剤薬局のM&Aを数多く手がけており、薬価に関する交渉や税務対応のサポートなども含む幅広い実績を持っています。
また、すべての調剤薬局にM&Aを推奨するわけではなく、まずは「M&Aが最適かどうか」を慎重に判断します。相談料も完全無料ですので、お気軽にご相談いただけます。
まとめ
調剤薬局を売却すべきタイミングや相場、できるだけ高値で売却する方法などについて解説しました。
調剤薬局を売却すべきタイミングは、以下の4つです。
- ・身近に後継者がいない時
- ・他の事業に集中したい時
- ・引退したい時
- ・廃業をしたくない時
上記のうちいずれかに当てはまっている方は、早速調剤薬局の売却に向けて行動を開始しましょう。
できるだけ高値で調剤薬局を売却するには、そして交渉をスムーズに進めるには、仲介業者の利用がおすすめです。
仲介業者のなかでも、薬局や医療業界に特化しており、成功報酬型の料金体系を採用している業者がおすすめです。
弊社アウナラでも、薬局特化型のM&A仲介サービスを提供しています。興味がある方は、以下よりぜひご相談ください。