
調剤薬局の経営は、今後ますます厳しくなっていきます。国による医療費削減や、かかりつけ薬局の推進が主な原因です。
実際に、調剤薬局の倒産件数は増加傾向にあります。
「今後の調剤薬局経営の厳しさについて詳しく知っておきたい」という方もいらっしゃるでしょう。
今回は調剤薬局の経営が厳しいと言われる5つの理由や、儲けすぎと言われる3つの理由、調剤薬局の生き残り戦略などについてまとめました。
薬局特化型M&A仲介会社の目線から、本音で分かりやすく解説します。
記事を最後までチェックすれば、調剤薬局経営の何が厳しいのか、どうすればうまく経営できるのかが明確になります。
【結論】調剤薬局経営の今後は厳しい
以下は、2004年から2021年11月までの調剤薬局の倒産件数をまとめたグラフです。
コロナ禍を除いたとしても、調剤薬局の倒産件数は緩やかな増加傾向にあります。
以下は、2015年から2024年7月までの調剤薬局の倒産件数をまとめたグラフです。
2024年の調剤薬局倒産件数は、過去最多となる見込みです。
以上から、調剤薬局経営の今後は厳しいと言えるでしょう。
「調剤薬局経営の今後は厳しい」は正解だが「なくなる」は間違い
なかには「調剤薬局は今後なくなるのでは?」といった声もあります。
たしかに、調剤薬局の経営が厳しいのは事実です。今後も倒産する調剤薬局の数は増え続けるでしょう。
しかし、医薬分業という考え方がある以上、調剤薬局自体がなくなることはありません。
今後なくなると言われているのは、調剤薬局のなかでも敷地内薬局や門前薬局です。
これは「かかりつけ薬局を増やして敷地内薬局や門前薬局を減らそう」という国策が原因です(詳しくは後述)。
厚生労働省が2015年に公開した「患者のための薬局ビジョン」では「2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にする」との記載があります。
また「2035年までに薬局の立地を各地域に移す」とも記載がありました。
かかりつけ薬局推進の流れにうまく乗れないと、経営は厳しくなるでしょう。
調剤薬局の経営が厳しいと言われる理由
以下5つの理由から、調剤薬局の経営は厳しいと言われています。
- 国による医療費削減の推進
- 大手薬局チェーンによるM&A
- 後継者不足
- 販売不振
- 国によるかかりつけ薬局の推進
それぞれ詳しく見てみましょう。
国による医療費削減の推進
高齢化などを理由に、国の医療費は増加傾向にあります。
以下は、昭和30年から令和4年までの、GDPに占める国民医療費の割合をまとめたグラフです。
上記グラフを見ると、医療費もGDPに占める医療費の割合も増加していることが分かります。
国は、この医療費をなんとかして削減したいと考えています。そこで実施されるのが、調剤報酬額の減額です。
国は2年に1回、調剤報酬額の見直しを行なっています。調剤報酬額の減額が、医療費の削減につながります。
今後も高齢化が続く以上、この傾向も変わらないでしょう。
調剤報酬額が減額されると、当然薬局の収益は減ります。そのため今後の調剤薬局の経営は厳しいと言われています。
大手薬局チェーンによるM&A
近年、大手薬局チェーンによる調剤薬局のM&Aが増加しています。
例えば2023年11月には、東京に本社を置くクオールホールディングス株式会社が、鹿児島県内の3つの調剤薬局を買収しました。
また2019年6月には、イオングループに属するドラッグストアチェーンであるウエルシアホールディングス株式会社が、岡山県を基盤とする金光薬品株式会社を完全統合しました。
M&Aを実施すると、売却益こそ得られるものの、経営権は失います。
この傾向が続くと、個人薬局が減り、大手ばかりが残ります。残された規模の小さな調剤薬局の経営は難しくなるでしょう。
そうなる前に、M&Aを行うのも選択肢の1つです。
関連記事:調剤薬局のM&A事例10件!売却相場や最新の動向、注意点についても解説
後継者不足
近年は、調剤薬局の後継者不足も深刻化しています。調剤薬局を後継者に譲る方法は、以下の2つです。
- 親族内継承
- 親族外継承
経営者が特に希望するのが、親族内継承です。以下は中小企業の親族内継承の内訳に関するグラフです。
親族内継承のなかでも、子どもへの継承が、81.5%と最多を占めています。
上記は中小企業に関するグラフですが、調剤薬局業界にも同じことが言えるでしょう。
しかし少子化や後を継ぎたくないと考える子どもの増加などを理由に、子どもへの親族内継承は難しくなっています。
以上から、調剤薬局を親族に譲りたくても譲れないケースが増えています。
関連記事:調剤薬局の事業継承を徹底解説!相場や手続き、失敗を避ける注意点を紹介
販売不振
販売不振は、調剤薬局の経営が厳しいと言われる一番の理由です。
例えば2022年における調剤薬局の倒産原因では、販売不振が約7割で最多となっています(出典:東京商工リサーチ 「調剤薬局」の倒産、コロナ禍が落ち着き減少へ 今後はオンライン化で淘汰が加速も)。
患者数の減少やコロナ禍の受診控えのような状態が続くと、販売不振に陥り、売上が低迷します。薬価が低いジェネリック医薬品の普及も、収益が低下する大きな要因です。
また近年では、大型ドラックストアやオンラインストアの影響で、価格競争が激化しています。価格を下げると、当然収益は低下します。
調剤報酬額の減少に加えて販売不振に陥ると、調剤薬局の経営は厳しいでしょう。
国によるかかりつけ薬局の推進
国は、かかりつけ薬局を推進しています。前述のとおり、2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にしようとする方針が掲げられているほどです。
国がかかりつけ薬局の推進にここまで力を入れているのは、門前薬局の乱立が必ずしも患者本位ではないと考えているからです。
国がかかりつけ薬局を推進する以上、それ以外の調剤薬局(敷地内薬局や門前薬局)には不利な制度の改定が行われます。
例えば、2024年の調剤報酬改定では、敷地内薬局において7種類以上の内服薬の調剤を行なった場合、薬剤料が1割減額されることとなりました。
こういった状況下で、かかりつけ薬局以外の調剤薬局を経営するのは厳しいと言えるでしょう。
「調剤薬局は儲けすぎ」と言われる理由
「調剤薬局の経営は厳しい」という声がある一方で「儲けすぎ」という声もあります。
「調剤薬局は儲けすぎ」と言われる理由は以下の3つです。
- 調剤医療費が増加を続けているから
- 数が多すぎるから
- 大手薬局チェーンの成長が目立つから
1つずつ詳しく解説します。
調剤医療費が増加を続けているから
以下は平成30年度から令和5年度までの調剤医療費の推移です。
年度 | 調剤医療費(億円) |
---|---|
平成30年度 | 74,746 |
令和元年度 | 77,464 |
令和2年度 | 75,447 |
令和3年度 | 77,515 |
令和4年度 | 78,821 |
令和5年度 | 83,077 |
調剤医療費は、年々増加しています。令和2年度(2020年)で調剤医療費が一度低下しているのは、コロナ禍による受診控えが原因でしょう。
「調剤医療費が増加している=調剤薬局の儲けも増える」ということで、調剤薬局は儲けすぎという声が生まれます。
なお平成16年度の調剤医療費は約4兆2,000億円でした。令和5年度の調剤医療費は約8兆3,077億円なので、約20年でおよそ2倍になっています。
数が多すぎるから
日本にある調剤薬局の数は、コンビニより多いとされています。
まず日本にあるコンビニの数は、2024年12月時点で55,736軒です(出典:一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会 コンビニエンスストア統計データ)。
続いて日本にある調剤薬局の数は2024年3月末時点で62,828軒です(出典:日経メディカル 日本全国の薬局数は6万2828軒で微増)。
「数が多い=それだけ儲かるのでは?」といった声があります。
調剤薬局の数がここまで多い理由は、病院の近くに院外処方箋を目当てとした多くの門前薬局が乱立するようになったからです。
しかし今後、かかりつけ薬局の推進などにより、薬局の数自体は減るのではといった声もあります。
また本記事でも解説したとおり、調剤薬局の倒産件数は増加傾向にあります。
大手薬局チェーンの成長が目立つから
近年、資金に余裕のある大手薬局チェーンは、M&Aによって事業規模拡大を図っています。
「大手薬局チェーンが個人薬局を買収した」といったニュースを目にする機会も増えました。
こういったニュースを見た方が、大手薬局チェーンに対して「儲けすぎなのでは?」といった印象を抱くのです。
このケースでは、個人薬局に対して「儲けすぎ」といった感情を抱いているわけではありません。
実際に、20店舗以上を経営する薬局法人の数は、2013年時点で17.6%であったものが、2021年には38.4%%にまで増加しています。
2025年度以降は薬学部の新設が認められなくなる
文部科学省は2025年度以降、原則として大学の6年制薬学部の新設や定員増を認めない方針を固めた。
出典:読売新聞オンライン 薬学部急増、2025年度以降は新設認めず…将来的な「薬剤師余り」に対応
上記の方針は、将来的な薬剤師余りや近年の薬学部急増による定員割れなどに対応するために打ち出されました。
しかし、薬剤師不足の地域では例外として親切や増員を認めるとのことです。
薬剤師余りが起きる原因の1つとして、薬局数の減少が考えられます。そして政府は薬局数の減少に対して、薬学部の新設を認めないという形で、あらかじめ対策を打っているのでしょう。
以上から、調剤薬局の経営が厳しいというトレンドは今後も変わらないと考えられます。
調剤薬局の生き残り戦略
今後調剤薬局が生き残るための選択肢としては、以下のようなものがあります。
- かかりつけ薬局
- 薬局DX
- M&A
各戦略について詳しく解説します。
かかりつけ薬局
本記事では「国がかかりつけ薬局を推進している」とお伝えしました。つまり今後も、敷地内薬局や門前薬局にとって厳しい改定は続くでしょう。
そのため、今後も生き残るためには、かかりつけ薬局としての役割を果たすことが大切です。
かかりつけ薬局は、患者が気軽に健康相談や薬の管理を依頼できる場であり、地域医療の基盤として期待されています。
しかし、かかりつけ薬局になるためには、24時間対応や在宅医療への対応が求められます。
これらの条件を満たすには、運営体制の見直しやスタッフの教育が必要であり、個人薬局にとって容易ではありません。
薬局DX
DXとは?:
デジタルトランスフォーメーションの略。デジタル技術を活用して業務や組織、企業文化などを変革する取り組み。
デジタル技術を活用して業務を効率化し、患者の満足度を向上させる「薬局DX」は、個人薬局が競争力を保つための有力な手段です。
薬局DXの具体例は以下のとおりです。
- 電子薬歴や在庫管理システムの導入
- オンライン服薬指導の実施
- 処方箋を事前送信できるアプリの活用
これらの技術を導入することで、業務効率が向上し、患者の利便性も大幅に改善されます。
またデータを分析すれば、地域の医療ニーズに合わせたサービスの提供が可能になるでしょう。
例えば特定の疾患に特化した相談窓口を設けたり、患者データを活用して適切な提案を行ったりすることで、薬局の価値を高められます。
アナログで経営を行っている調剤薬局は、DXによって経営状況を改善できるかもしれません。
M&A
経営環境の変化に対応し、事業を存続させるための選択肢として、M&Aは非常に有効な戦略です。
M&Aを行えば、経営権を失います。しかし後継者がいない場合でも事業を継続させられます。
譲渡後も患者や従業員に大きな変化を与えない形での運営が期待できるでしょう。
またM&Aは、売却益を得られる唯一の選択肢です。親族内継承や親族外継承、廃業では売却益を得られません。
M&Aによって得られた売却益は、引退後の生活資金となります。調剤薬局以外の事業を行っている場合は、そちらの資金に充てるのも良いでしょう。
後継者不足が深刻化している現在、M&Aは個人薬局が廃業を回避するための現実的な解決策です。
もちろんかかりつけ薬局化や薬局DXなどの解決策もありますが、必ずしも経営状況を改善できる保証はありません。
調剤薬局のM&Aには仲介業者の利用がおすすめ
調剤薬局のM&Aを検討している方には、仲介業者の利用がおすすめです。理由は以下の2つです。
- 手続きが複雑だから
- 価格交渉のサポートを受けられるから
それぞれ詳しく見てみましょう。
手続きが複雑だから
調剤薬局のM&Aでは、行政手続きや交渉、契約締結など、複雑なプロセスを順番に進める必要があります。
具体的な手続きの例は以下のとおりです。
- 薬局開設許可
- 保険薬局指定の移管手続き
- 買い手探し
- 契約内容の調整
- PMI
仲介業者を利用しない場合、これらの作業をすべて自身で行う必要があり、膨大な時間と労力がかかります。
また専門知識がないと、不備が生じるリスクがあります。
不備があればM&Aが不成立になったり、不利な条件での譲渡につながるかもしれません。
仲介業者はこのような複雑な手続き全般をサポートし、スムーズな取引を実現します。
具体的な手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:調剤薬局の譲渡に必要な手続きとは?遡及申請やかかる期間についても解説
価格交渉のサポートを受けられるから
M&Aにおける価格交渉は、売却成功の鍵となる重要なステップです。
しかし、個人薬局経営者がM&Aの相場や市場動向に精通していない場合、適切な価格での譲渡が難しくなることがあります。
買い手が価格を引き下げようとした際に、正当な根拠を示せなければ、不利な条件を受け入れざるを得ないかもしれません。
仲介業者は、業界特有の市場データや成約事例を基に、適正な価格を算出するためのサポートを行います。
また、売却価格が高くなれば仲介業者の報酬も増えるため、できるだけ高値での取引成立を目指して動いてくれる点もメリットです。
譲渡相場については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:調剤薬局の譲渡相場は?事業継承・M&Aに分けて詳しく解説
調剤薬局のM&Aはアウナラにおまかせください
アウナラは、薬局業界特化型のM&A仲介会社です。
薬歴メーカー元代表をはじめ、薬剤師や公認会計士などその道のスペシャリストで構成されたチームが、クライアントのM&Aを全力でサポートします。
料金体系は成功報酬型なので、M&Aが成功しない限り手数料はかかりません。また売却益の一部が仲介手数料になるので、売り手様は完全無料でM&Aを行えます。
アウナラは、これまでに全国のさまざまな調剤薬局M&Aを支援してきました。薬価交渉や税務支援などを含むM&Aの実績も豊富です。
アウナラでは、すべての調剤薬局経営者様にM&Aをおすすめすることはありません。「M&Aをしたほうが良いかどうか」から判断させていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。
相談料も完全無料です。
まとめ
調剤薬局の経営が厳しいと言われる5つの理由や、儲けすぎと言われる3つの理由、調剤薬局の生き残り戦略などについて解説しました。
調剤薬局の経営は、今後も厳しくなっていくことが予想されます。特に門前薬局や個人薬局は、その傾向が顕著です。
今後も生き残るために、かかりつけ薬局になる・薬局DX・M&Aなどの対策を講じましょう。
アウナラは、薬局業界特化型のM&A仲介会社です。成功報酬型なので、売り手様は完全無料でM&Aを行えます。詳細は以下よりチェックしてみてください。